『ボクの四谷怪談』感想

宝塚以外

今さらながら、10月8日に観た『ボクの四谷怪談』の感想。

●お岩さんの動きがすごくいいと思ったら、演じているのが歌舞伎畑の人だったんですね。納得。尾上松也さん。

上体を後ろに倒して一回転するところがすごいと思ったけど、ただ歩くだけのときでもとても美しくてね。雰囲気がある。
見応えがあった。

ネタばれになるけれど、「私はおまえだ」となってからの女形でない男の芝居もいい。

●主役の伊右衛門は最後の長ゼリフがすごかった。
あれ、テンションを維持するのが大変そうだなぁ。

●与茂七はほんっとーにイヤらしかったな。
えぐい悪役。
綺麗事を並べ立てて人を責め、でもそれを言う本人がいちばんずるいっていうね。

自分のことは棚にあげて、よくもまぁつらつらと言えるもんだ! と震えがきたね。
ほんとに卑怯で、それが真に迫っていた。
パワフルだったなぁ。

●ヲカマな弟=次郎吉は、「ああ、懐かしい…」と思った(笑)。
木川田源ちゃん(だっけな)みたいな感じ。

●橋本治世界と江戸の世界が溶け合って、なかなかにカオス。

舞台の左右上方に電光掲示板が設けられていて、そこに歌詞が出る。
その歌詞がとっても懐かしい橋本治テイストでねぇ…。

歌詞そのものはおぼえてないんだけど、「さァァみしィんだもんッ!」みたいな表記なのね。
とっても口語表現。うっとおしいくらいに口語表現。『桃尻娘』思い出すわー。

●愛し合った2人が実は生き別れのきょうだいで、しかもあっさり死んじゃう…というあたりのもの凄さは、さすが歌舞伎だなぁ…。
いやほんと、大味にして大がかり、けれん味たっぷり。
『八犬伝』とかのご都合主義とざっくりした見せ場がこれでもかと設けられております。

ここまで堂々と無茶をやられると、かえって「ここ辻褄合わなくね?」的な細かいツッコミを入れる気が失せます。

●観終わってから「で、これはなんなんだ?」という気持ちでいっぱいです。
うまく消化できない。

登場人物は変な人ばかりで、舞台は「時代は昭和五一年にして文政八年、さらに元禄一四年であり、しかも南北町時代。」と描かれるように時代を横断したカオスっぷり。

主役は現代の若者の風貌でありながら、刀を差し、傘を売っている浪人。
多くの殺し、不徳、不逞が舞台上でなされながら、「それがどうした?」「なんか起こってるけど不可抗力だしオレにはどうもできねぇもん」とばかりに投げっぱなし。
「観客の共感? なにそれ」とばかりなドライさ。
こざかしい倫理感も説教も、舞台の上では意味を持たない。

歌が、セリフが、物語が、怒濤のように押し寄せてくる。
次から次へとやってくるからこちらは押し流されていく。
そして「なんだったんだ?」が残る。

たぶん私は「理解」「解釈」しようとする病気にとりつかれているのだ。
わからないものをわからないままポンと受け止めることができない。
だから困惑してしまうんだけど、そういうクセを持ってない人ならきっとめちゃくちゃ楽しめると思う。(ていうか、私だって楽しかったことに間違いはないのよ)

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