『ニジンスキー』感想・3

雪組

たった1度しか観ていないのですが、自分の中で作品がうまく消化できません。
「よかったな」という気持ちが奥底にあって、その上であの作品をどうとらえてよいのかわからない。
うまく言葉にならない。自分の感情が掴めない。

『オネーギン』を観たあとしばらくはこんな感じだったな、と思いました。
常に作品が自分のまわりをとりまいていて離れない。後を引く。

作品にはまっているんだと思います。
1度しか観ていないけど自分が掴まれてしまったんだと思う。
これだからいいJUNEは困る。現実にうまく着地できない。心が戻ってこない。

「うわ、宝塚でホモやっちゃうんだww」的な萌えテンションで観劇を楽しみにしていたわけですが、実際はその愛憎の濃さに脳をゆさぶられます。
「萌え」とか言ってるばあいじゃありません。

美しくて苦しくてせつなくて苦くててかわいそうでいとおしい人間たちがそこにはいました。

ちぎたさん演じるニジンスキーのなにものからも自由でありたいという気持ちもわかるし、緒月演じるディアギレフの愛と束縛と憎悪の気持ちもわかる。
あゆちゃんのロモラの地に足のついた温かな気持ちもわかる。

出てくる人たちの感情が観ている私にも届いて、やりきれなさや救われなさに心が痛む。

緒月のディアギレフは新境地をみた気分です。
こんなに繊細な人物を作れるんだ。

今までは体の大きさや顔立ちや雰囲気の男っぽさを重視してか、「膂力のありそうな男」「革命家や政治家などの権力に近い男」「ガタイはいいけど脳みそは蟻ていど」系の役が多かった。
熱くて力押しな男がほとんどでした。

今回のディアギレフは美しいものを愛し芸術を愛する、とても繊細な男でした。
芸術家肌で傷つきやすそうで、愛と支配欲が強くて、裏切られたときの憎しみもそれに比例して強い。

自分の知らないところでニジンスキーとロモラが結婚してしまったときの激昂と憎しみの表現がすごかったんです。
静かで粘着質で、青い炎が燃えさかるような怒り方で、緒月がこういう表現をできることに驚きました。

一緒に暮らしたことがあってもニジンスキーの心が自分にはないことは知っている。
だからこそ支配し束縛せずにはいられない。
ロモラのことはきっかけにすぎない。
だがそれでも、彼が自分になにも言わずに結婚したことで最後のたがが外れてしまった。

憎しみからニジンスキーを見放したものの、窮地に陥った彼の懇願に応じる見返りにまた支配しようとする。
ディアギレフはニジンスキーの羽をもぐ。
だが彼は手に入らない。
狂うことで魂の自由を手に入れてしまった。

ディアギレフをすごくかわいそうに思ったのは、まなはる演じるレオニード・マシーンとの関係を知られて「私はこんなふうにしか生きられないんだ」といった感じのことをロモラに語る場面。

本当に、愛がなくては生きられないんだ。
それが代償であっても。嘘偽りであっても。ぬくもりがないと生きられない。
弱くて繊細な男なんだ。

なんせ1度しか観ていないので記憶違いや解釈ミスなどがあったらすいません。
でもディアギレフの辛さが心に残って今も痛い。

こういう「弱い」役を演じられる緒月に拍手を送りたい気分です。

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雪組

Posted by hanazononiyukigamau