『虞美人』感想・2

花組

今回よかったと思うのは第一に張良のまっつ。

酒場に登場するときの涼やかさ、才にあふれるものの驕り、理知的な話し方、落ち着き。
戦国の世を生きるものの如才なさ、戦略的な目、すべてがかっこよかった。
軍師というものを見たことはないけれども、子どものころに小説で読んで憧れた軍師そのものだった。

クールで頭脳明晰で残酷さも表にでるけれども、心の痛みを知っていて優しさもあるすごくいい役だ。

特にすごかったのは范増を迎えに行くところ。
師であり敵方の軍師であり力量を認め合った年齢の離れた友のようでもある相手。
おそらくは、張良にとって唯一対等と思える存在。

そんなかれを自分の策略によってその地位から追い落とした。

自分のしたことはわかっている。
だから謝るのは筋違いになるし、こういったことが戦国の世のならいであることもわかっているだろう。

それでも迎えにいかずにはいられない。

せめてものつぐないを断られたときの苦い表情、声音が痛切だった。
かれが劉邦に語る「身を切るより痛い思い」がそこにはあった。

范増を亡くしたその後、張良は人が変わったようになってしまう。

人でなくなったような雰囲気で、天下を取らせることに手段を選ばなくなる。
雰囲気がさらに研ぎ澄まされ、寄るものすべてを斬ってしまうような、苛烈で冷酷な人がそこにいた。

元々、主君である劉邦を道具としてしかみていない。
それでも項羽方に范増がいたときは、かれと戦うことに喜びを見出していたのか、人間味があった。余裕があった。

それを自らの手で滅ぼしてからは、かれ自身の内面に人間的なところを失う。
心が壊れてしまったとでも言えばいいのか。

張良ってすごくドラマティックな役だ。
そしてそのドラマを見せることができるのは他ならぬまっつの力量ゆえだ。
彼女の役者としての演技力に乾杯。


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花組

Posted by hanazononiyukigamau