月版ロミジュリ感想・8

ちょっと時間が経ってしまいましたが、月組公演『ロミオとジュリエット』6月22日15時(初日)、23日11時公演の感想の続き。

乳母の役というのは、誰しもが思うことだろうけれど、むつかしい。
人格や、考え方の統一性という意味で。

わが子同然に育ててきたジュリエットを愛し、彼女の恋を応援し、敵対する男との結婚式に同道する。
ロミオが追放されることがわかったあとでさえも初夜の手引きをする。
それなのに、彼が追放されたら手のひらを返したように「パリス伯爵と結婚なさるべきですよ」と言いだす。

――観客は混乱する。
なぜそんなことを言うのだ。どういう気持ちなのだ。
パリス伯爵と結婚したほうがいいというなら、なぜ初夜の手引きをしたのだ。

美穂姐の乳母からは、ピエロのような印象を受けた。

そのときそのときで様子を変える。
旗色の良いほうにつく。
そのとき目の前にいる、自分にとって一番強い人の顔色をうかがう。

キャピュレット夫妻にもジュリエットにもいい顔をしたい。
でも自分の立場を保証してくれるのはキャピュレット夫妻のほうだから、こちらを優先。乳母はしょせん雇われている身。
立場上、キャピュレット卿に逆らわないほうが有利。

ジュリエットのことはもちろん可愛いけれど、いなくなったロミオよりパリス伯爵と結婚したほうがいいと思うのも本当のこと。
だからうまくいいくるめてなだめる。
少し卑屈な笑顔で。

――乳母の手のひら返しは仕方のないことだけれど、すごく悲しい気持ちになる。
あのとことんまっすぐで潔癖なジュリエットには、絶望するしかない仕打ちだろう。

どこが本音なのか、きっと乳母自身にもわかっていない気がする。
彼女にあるのは処世術。
自身の心のありかを問うことは、乳母にとっても危険なことだ。身を危うくする。
だから、そのときどきのベストが彼女の答えなんだ。
そしてそれが本心なのだと、あえて偽るでもなく、信じることで生きのびていく。俗人としての、ある種の強さをもっている。

美穂姐の歌は素晴らしかった。
男役でも娘役でもない、歌を武器に長年舞台上に生きてきた「女役」。
だから、あの音域が出せる。

高音も低音も、美穂姐のキャリアあってのものだ。
聴きごたえのある乳母の歌だった。

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