『桜嵐記』を見て思い出す演出家とハラスメントのあれこれ

昨晩、時代劇専門チャンネルで『桜嵐記』をやってまして、Blu-ray(未開封だけどね)があるのに最後まで見てしまいました。

この作品の四條畷の戦いの場面がとても好きなんですよ。
デンデンデデンデンの音と舞台上下からの桜吹雪を背負って出てくるたまちゃん正行という演出は何度見ても神だわ。

去らせた妻が自分の愁いをなくすために自ら命を絶ったと知ったときのちなつ正時の芝居も好き。
戦うことより料理が好き、安全第一で生きてきた正時が、妻が亡くなったと知ったときの変貌。

ウエクミ、いいツボついてくるなぁ。
古典的でけっして外さない観客の感情の動かし方をよくご存じである。
次代を超えて練りこまれた、いっそベタであるがゆえに確実に快楽のツボを突いてくるので観ているだけでものすごい快感である。

さて、時代劇専門チャンネルでの放送だと、中井美穂さんとゲストとのトークが前後についてくる。
このときのゲストは元月組トップスターのたまちゃんこと珠城りょう氏、『桜嵐記』の主演です。

演目の裏話や稽古場での話などを聞けるのだけど、『桜嵐記』はたまちゃんのために書いた作品ではないのですよね。
なにせウエクミは忙しいから(宙組『FLYING SAPA』もあったし)、いつかやろうと思っていた作品の中で「これなら」というものを出してきたらしい。
なのに宛書のようにぴったりなものが出てきたから驚く。

トークの中でたまちゃんは「(ウエクミのお稽古は)なんでこんなにできないんだろうと思うことが多くて」「(自分はウエクミ作品に慣れているけど)慣れていない人は大変で」みたいなことを言っておられた。

ああ、お稽古、大変だったんですね。
精神的に追い込まれそうだもんね。たまちゃんは『月雲の皇子』『BADDY』での主演があるし、どうも『ジプシー男爵』『エドワード8世』『PUCK』新公担当もウエクミだったみたいだから縁があるんだわ。

昨年末、いやおととしから演出家のハラスメント問題が話題に上ることが増えた。

何人か宝塚の演出家の名前が挙がっていて、セクハラありパワハラありで「ああ、うん……」という気持ちになった。
信じたくない、そんなことあるわけないと言えたらいいけど、私は内部の人間ではない。
それに、外野だとはいっても問題になる以前からの雑誌・テレビ等の情報に加えて友人・知人からのうわさで「これってかなり精神的にくるやつやん……」と思うこともあったし、週刊誌に出たことと辻褄が合うような話もあるのである。

景子センセイの本やほかの演出家が書いた手記などを読めば演出助手の過酷な労働状況はわかるし、そのような状況ではハラスメントは起こりやすい。
また演出家とタカラジェンヌが「先生」と「生徒」という権力勾配をもっているのも明らかだ。演出家と演出助手も同様。

真偽のほどは別として、ハラスメント問題の話題のなかにはウエクミもいた。文春ではなかったと思うけど、たしかネットニュースかなにかで見た。
ウエクミは大変な人だったんだろうと思う節はある。
報道以前に『星逢一夜』のときに生徒が大変な思いをしたとのうわさを聞いたし、『凱旋門』新人公演での稽古でのことを卒業時のあいさつで語った生徒もいた。

けど、ウエクミの場合はオリジナル作品のクオリティで黙らされるのである。
お金を払っただけのものは還してくれる。

作品が良ければ人柄はどうでもということはないけど、最終的にはコメントしてるたまちゃんがウエクミに対して嫌な感情を持ってないように見えるのが判断材料としては大きいかな。

とはいえ、特定の人が良く言ってたとしてハラスメント要素がないかは別問題だ。一般論として。
こうして表で語れるというのも、たまちゃんが宝塚の世界で生き抜いた人だからという要素はある。途中で脱落を選んだ人には語れる場はほぼない。

ハラスメント問題で名前が挙がった別の演出家も、「よく生徒が真似してる=愛されてる」という風に変換されているふしがある。
私は「真似されてる」と「愛されてる」がイコールであるかに疑問を呈したいし、本当にその生徒から愛されていたとしても演出家がほかの人に対してハラスメントを行っていないという証左にはなりえない。
だいたい、パワハラ、モラハラにしてもセクハラにしてもやる相手を選ぶじゃないですか。「あの(外面の)いい人がなんで?」となるのまでお決まりだ。
(なかには「あー、あの人ならやるよね」な人もいて、それはそれで終わっている)

それに、真似するのって単にネタ扱いにしてるときあるよね。
「あの教師むかつくわー」って嫌いな教師の真似して遊ぶこととかあるでしょう。社会人になったら教師じゃなくて上司や先輩とかかな。
ネタ扱いして、うっぷんのガス抜きしてるだけっていうね。

文春に出た演出家のモノマネがそれに該当するかはわからないけどさ。

タカラジェンヌという舞台上で演技をするのが仕事の人間が、今その人が手持ちでもっている感情だけで舞台を務められるのかというとそうはいかないと思う。
となると、強い感情を引き出すために演出家から精神を揺さぶられるような指導が入ることもあるでしょう。
受け止めようによってはハラスメントともなり得るようなものもあったかもしれない。というか、私はあっただろうと思っている。

それらの圧に耐えてこそのタカラジェンヌ、耐えてこその舞台人、と言いたくもある。けれど、その指導方法じゃないとだめですか?というところに宝塚は差し掛かってきている。

ウエクミの指導は仄聞するにけっこう圧が強い感じを受けた。それでも「上田作品に出たい」という生徒はけっこういたらしい。
指導がハラスメントか否かを「結局は生徒への愛があるかどうか」という「愛」なるあやふやなところに着地点を見出したくはない。
が、うまく言語化できないけれどそういった要素はたぶんあるんだろうな。

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