『ランスロット』感想・7

『ランスロット』――宝塚版のこの芝居はいろいろと解釈したくなるものがあります。
そしてまだその結論がわからず、疑問は心の底にたゆたったままで、これが自分の中で決着をみる日がくるのかどうかわからないままです。

新しい公演もはじまっているというのに考えさし・書きかけのまま放置というのも私がすっきりしないので、わからんものをわからんままに、ここに書いておこうと思います。
試論みたいなもんですかね。

本気で到達点がわからんまま書いてるので文章がぐちゃぐちゃしていることを先にお断りしておきます。
でもって、長いので下においておきます。

お付き合い下さるかたは続きをどうぞ。


初回、第2幕をみたときは混乱した。

聖杯探求する円卓の騎士たち。
旅の中で無辜の村人たちが虐殺される。

その中に幼ランスロットと幼グウィネビアの姿もある。
2人、つないで逃げようとするその手をランスロットに断ち切られる。

次景、モルゴースの棲む森の中、腕を失った幼ランスロットにいる。
「生きたくはないか」「あの男が憎くはないか」
「生きたい」「憎い」
モルゴースの言葉に答え、15年の寿命を与えられた幼ランスロットは隻腕の騎士・モルドレッドとなる。

アーサー王の前に現れたモルドレッドは呪われた椅子に座り、円卓の第13の騎士となり、アーサー王と円卓の騎士たちを破滅へと導く。

モルドレッドの計によりランスロットとグウィネビアの不倫関係は公となり、円卓の騎士は分裂する。

グウィネビアが火刑に処されるとき、彼女を救いにきたランスロットとそれを追うモルドレッドが対峙する。

「お前は何者だ」
「まだわからんのか。私はお前だ」
「あのときの子供か」

「私の最後の罪だ。一緒に死んでくれ」

ランスロットとモルドレッドは相討ちする。
ランスロットは呪いを引き受け、そこに聖杯が降臨する。

聖杯が、ランスロットを選んだ。

天上から聖杯の守護者ヨセフとランスロットが下界をみている。彼らの見る世界はランスロットが望んだもの。

時はさかのぼり、アーサー王とグウィネビアの婚礼が行われようとしている。
グウィネビアの傍らにはモルドレッドが控えている。
そこに現れる幼ランスロット。騎士になるべくやってきたのだ。
そして大団円の幕は下りる。

これが第2幕の概略。セリフその他うろ覚えですので違っている点はご容赦を。

なぜ幼ランスロットがモルドレッドになったのか。
モルドレッドとランスロットの関係とは。
ランスロットが口にした「最後の罪」とはどういう意味なのか。

見終わって、疑問が心の底に澱のように溜まる。

アーサー王伝説に詳しいわけではないが、元来モルドレッドはランスロットの「影」ではない。
伝説上は、彼はアーサー王と魔女モルゴースの間の、近親相姦で生まれた「罪の子」だ。
本来彼はランスロットの罪ではなく、アーサー王の闇を負っている。

その位置が、この宝塚版では大きく変わっていえる。

アーサー王に不義はなく、彼は白く清らかなまま。
聖杯探究もランスロットがグウィネビアへ懸想したがゆえの欲に発したもの。
国を滅ぼす「罪の子」を生み出したのはランスロットだ。

モルドレッドが生まれるに至った過程。

ランスロットは恋をした。
王妃との不義の関係に陥り、そして我を失った。
狂った。
聖杯の力で全てを得ようとして、あらゆるものを失った。

その中で断ち切ったものは、グウィネビアとつないでいた腕。
人を愛する心。
欲に支配された彼の元には聖杯は訪れない。

人であったランスロットが獣とも魔物とも化したとき、その左腕から生まれモルゴースに力を与えられたのがモルドレッドだ。
魔物として生まれ、母から復讐の念を教えられて育てられ、ヴィヴィアンの言葉を受けて最期は人として死ぬモルガンとは対照的な位置にある。

アーサー王に関わるモルガンは、人として、魔ではないものとなって亡くなる。「光」を負う。
対し、ランスロットより生じたモルドレッドは「闇」となる。

なぜ、モルドレッドがランスロットから生じなければならなかったのか。
それはこの物語が“ランスロットの物語”であるがゆえだろうか。

光り輝くだけでなく、闇も何もかもを飲みこみ、超克していく――そんな姿を描くために、アーサー王からではなく主人公のランスロットから生まれなければならなかったのだろうか。

ランスロットは超克する。
自分の過ちを悟る。そしてモルドレッドと共に消えることを決意する。

「私の最後の罪だ。一緒に死んでくれ」

最後の罪とはなんなのだろう。
グウィネビアを愛したがゆえに国が乱れたこと、欲に走ったこと、グウィネビアとつないでいた幼い手を断ち切ったこと、モルドレッドを生んだこと。
それを超えて、「最後の罪だ」とかれは言う。

人を殺すことが罪なのだろうか。
自らを殺すことが罪なのだろうか。
あるいは――。

ランスロットが罪をすべて引きうけたところに、聖杯は降臨する。

「一緒に死んでくれ」――それがランスロットの最後の願いだったはずなのに。
モルドレッドは消えなかった。

浄化されて、グウィネビアの傍らにあった。
隻腕ではなく、完全な姿をもって控えている。
聖杯の力とランスロットの願いによって作り出された世界にモルドレッドはいる。
これがあるべき姿だったとでもいうかのように。

円卓はまた作られるだろう。
「12」という完全な環をえがいて。

闇も罪も、全てを受け入れたランスロットは創世者となる。
神に擬してもよいかもしれない。
そして「誰も生き残りはしなかった」と、荒涼たる景にはじまった物語は、完全な世界をもって閉じる。

完全な世界。
楽園である。

だが、それはきっとあの世にも似ている。

あの光景はもしやランスロットがいまわの際にみた夢であったかもしれない、と私は夢想する。

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