聖乃版『舞姫』感想・1

花組公演感想,花組

ほのかちゃん主演の花組バウホール公演『舞姫』を観てきました。

森鷗外の『舞姫』を原作にした、植田景子センセイが作・演出をつとめた作品。
2007年にみわっち主演で上演されたものの再演です。

宝塚で舞台化するにあたり森鷗外の『舞姫』に手が入っていますが、再演版である今回はみわっち版をベースにしつつ、ほんの少しラストが変わっています。

※以下、ネタバレ含む※

登場人物レベルでいえば、画家・馳芳次郎(初演は原芳次郎)は原作にはいないキャラクターです。
主人公・太田豊太郎のあり得たかもしれない姿、という役割を持つ芳次郎を出すことで物語を重層的に見せる効果があります。あと単純に役が増える(笑)。

芳次郎の恋人ミリィ(初演はマリィ)、衛生学を学ぶ岩井直孝、妹・太田清、最後に出てくる若者・青木英嗣も宝塚版ならではの登場人物です。

話の大筋は原作と同じです。
国費留学生としてドイツに旅立った前途洋々たる主人公・太田豊太郎が若い踊り子・エリスと出会い、恋仲になる。
しかし同じ上司ににらまれた豊太郎は女性問題で免官される。
親友・相沢謙吉のはからいによって天方伯爵への仕官の道が開けた豊太郎は、自分の子を身籠ったエリスをドイツに残したまま帰途に就く。
捨てられたエリスは精神を病む。

高校時代ぶりに原作を読んだんですが、豊太郎の描かれ方の違いに驚きました。
「国のため」よりも自分の出世栄達のため、なんですよね。
エリスが発狂したのも相沢のせいにしてる。

原作・豊太郎に比べ、宝塚版豊太郎はすごくきれいに、主に女性である観客が共感できるように描いてるんですよね。
豊太郎の根底にはふるさと、そして家族への想いがある。
「お国のために」という時代性と、武士の子として生まれたがゆえの忠義の心もある。
母の死も自分を諫めるためのものになったことで、自責の念も強い。
それでもなおエリスへの恋心やみがたく、愛と国とに心が引き裂かれる。
なにより、エリスの発狂を相沢のせいにしない。

それとエリスの妊娠についても違いますね。
原作は妊娠したまま。発狂したまま子供を産むのでしょう。
みわっち版では実は想像妊娠、という形になってたはず。豊太郎が別れを告げるまでもなく想像妊娠という病んだ状態にすることで、エリスの発狂が豊太郎のせいではないというエクスキューズだったのかもしれない。
でもそれがかなり評判が悪かった(と思う。当時の記憶では)ためか、今回のほのか版では流産して発狂という流れになってました。
エリスが流産しなかったら「子どもどうすんのさ、ドイツで産ませてそれきり!?無責任じゃない?」ってことになるもんなぁ。辛いけれど比較的マシな落としどころなのかも。

――という感じで原作、初演とは少し違ったほのかちゃん版『舞姫』。
たいそう美しく、素敵な作品でありました。
景子センセイ、泣かせるわ。
合間合間に入る琴と笛の音の効果的なこと。
日本人である太田豊太郎を、エリスへの愛を断ち切らせて日本へ向かわせる力です。

ほのかちゃんは凛々しく優しく美しく。
太田豊太郎を演じるほのかちゃんの良いところは、とてつもなく美しいのに、それよりも意志の力が強く見えるところですね。

花組の芝居の力が上がっているように感じます。
作品そのものに加え、演者もよくて大変満足しました。
むりやり観に行ってよかったです。

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