『ノクターン』感想・3

花組

●原作を読んでいないのですが、きらりちゃんの役=ジナイーダは、原作より宝塚ナイズされていそうだなぁと思いました。

具体的な理由はありません。
が、やたらときれいで、「宝塚のヒロインは本質的に純真であるべき」という演出家の思想が投影されていそうだと感じたのです。

ファム・ファタル、男の運命を狂わせる女と言われつつもジナイーダにはそんなつもりはさらさらなく、そう言われることに苦しみすら覚える姿が「“あるべき”ヒロインの姿」と感じられました。
それゆえに“年上の女性”というより“少女”に見えたんです。
個人的にはもっとえぐい悪女系でもオッケーなんですけどー。

ジナイーダの人物造形が原作に忠実かどうかはさておき、きらりちゃんのジナイーダは蠱惑的な部分と純真な部分を美しいバランスのもとに併せ持っていました。

ゆずかれーちゃんとのダンスのなんと見ごたえのあること。
なぜ、あのドレスで軽やかに跳べるんだ。
裾を引っかけないんだ。

ああ、プロの娘役ってすごい。

ウラジミールに心惹かれていく過程も丁寧な演技で、心の揺れが伝わってきました。

●このまえの星バウ『かもめ』とこの『ノクターン』を観ると、ロシアの色男はろくでもないのしかおらんのだろうかという気持ちになりますね。

それはそうと瀬戸くん演じるピョートル。
めちゃくちゃかっこいいです。

最初の、息子・ウラジミールが憧れる自由な生きざまと、その実情を見せてくるところに齟齬がないのがすごくよかった。
ああ、こういうのにだまされるよねぇ。仕方ないよねぇ。
ウラジミールが可哀想だけれど、そんなもんだよなーと思う。

そしてこういう色悪をやってる瀬戸くんはマジでかっこいいです。
大人の色香をこれでもかと出してきましたよこの人。

晩餐会の場面でなにも言わないけど面白そうにしているところの、チョロっと内面をにじませてくるところがいいんです。
ウラジミール視点での「素敵な大人」から、徐々に食わせ物っぽさを出していき、ジナイーダに手を出すも遊びは遊びとして財産を持っている妻に表向き従って生きていく(愛を至上とする“宝塚的な”視点からいえば)最悪さへと移り変わっていくさまが面白かったです。

ろくでもないっちゃろくでもない男なんですが、それでもちょっと痛快だなとも思う。
これだけ身勝手できないからね、普通は。

そして結局のところ美しさの前にひれ伏したくなるんだ。

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花組

Posted by hanazononiyukigamau