第2部は演劇「吉野山・雪の別れ」。
脚本・演出は谷正純先生です。
作品についてプログラムにはこのように書かれていました。
「兄・源頼朝に追われ逃げ落ちた源義経、その逃避行は様々な物語を生して来ました。
第二部・演劇では難しい日本物に挑戦致します。さて、彼女たちは吉野山・吉水院での物語を如何演じますか。
その強みは情熱と可能性、出来得れば暖かい目で見て下さい。」
谷センセイの和物はコメディが最高ですが、そうでないシリアスな芝居物もいいのですよね。
初めは娘役5人が幕前で芝居。
白拍子姿の「ことだま」がセンターです。
ほかの娘役は女房風ですが彼女らも元は白拍子だったらしい。
義経の愛妾・静御前も元は白拍子だったので、仲間ということになるでしょうか。
次いで登場するのが義経の家臣たち。
嵐のために佐藤忠信たちが行方不明になっているという話を。
義経一行は海から西国へ逃れようとしたものの、暴風雨で吹き戻されて散り散りになっているわけです。
状況説明のためにけっこうな長セリフもあります。
こなすのは大変でしょうが、それも勉強ですよね。
ここまでは幕前で、5人ほどずつで場をつなぎます。
幕が上がり、そして出てくる主人公・義経と弁慶。簡素ながら雪の吉野山のセットができています。
義経は第6席さんです。
平家追討の功労者である義経を追う兄・頼朝への思いや、弁慶との主従関係の話などもします。
雪深い吉野の山の中、東国へ落ち延びようとするこれからの道のりを思い、弁慶は、主・義経の愛妾・静御前への想いを断ち切らせようと説き伏せます。
情が深い義経ゆえに愛妾・静御前を見捨てることはたやすくありません。
しかし静御前は身籠っている身で、ただでさえ難儀な山越えがさらに厳しくなります。
あなた、従者たちのことを考えなさいよ――と言いたくもなるのですが、そんな義経だからこそついてきた従者たちでもあるのです。
ヒロイン・静御前は首席の娘役さん。
やはりここでも……!という使われ方ですが、きれいで上手いです。ほんとそつがないな……!
日舞ができるだけあって着物をさばく所作もきれいにできるし。というか、日舞ができる彼女だからこその「和物」演劇なのか……?
逃げる身でもあり、食べ物に事欠く義経一行。
そこに現れる村人の夫婦2人。
すわ間者かーーと緊張の走る場面ですが、妻・くぬぎはかつて狼藉を受けそうになっていたところを義経たちに助けられたことがあり、その恩返しに食糧をもってきたわけです。
この村人夫婦、上手かったのですよ。これからが楽しみ。
次席さん演じる佐藤忠信がこの作品の2番手でしょうか。
東国出身で、共に戦った兄は屋島の戦いで命を落としています。
忠信と思いあう女房・阿沙黄(あさぎ)とのやりとりも美しく切ない場面でした。あえて語らない美学が日本物にはありますから。
なお阿沙黄は日舞で最初に歌っていた娘役さん。
義経は静御前と別れを決め、村人夫婦に静御前を託します。村人夫婦はかれらしか知らない道があるのです。
一方、義経たちは東国へ落ち延びることとし、東国に住む母親に会えと義経は忠信を説得を試みますが、忠信は肯いません。
追っ手の差し迫る中、頼朝の追っ手は忠信と東国出身の2人(四郎次郎と弥太郎でしたっけ)が引き受け、弁慶ら義経一行(5名ほど)は東国へと向かいます。
バウホールの上手センター通路を使って捌けていくのは、文化祭では初めて見る演出でした。
かれらを舞台上から見守る忠信。
最後は舞台にただ一人、頼朝の追っ手(概念)と戦いの中に幕が下りるという華やかさ。
これもまた文化祭では破格の演出ですね。
しかしこの演出に負けない、大きさのある演技でした。
文化祭ではなかなかない演出に度肝を抜かれつつも、110期生の実力のさまを充分に見せてもらえる作品でした。
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