『へぼ侍』感想・3

OSK

・妻が恋しくて帰郷する知颯くんの三木。
知颯くんは童顔でやや小柄ながら妻を愛する色気があるんですよね。
逃げたということで武士の面目が立たず周囲から白眼視されるも、そこまでの妻への情を感じさせました。

三木の妻をあえて出さないのも、かえっていいのかもしれない。
妻の姿を観客の想像にゆだねることで、ある種の神話性を持たせる効果があるんじゃないかと。『古事記』『日本書紀』などから連綿とつながる、ある意味女々しい男性の姿と映る。
もし三木が死んだら、白鳥になって妻のもとへ飛ぶだろう。

眼鏡のかけ外しもビジュアル的に美味しい。

・料理を愛し、俸給の分だけ働くとうそぶくせいらくんの沢良木。
タレ目で「~でおま」の都言葉の優美さが西南戦争にはそぐわず、暢気で場違いである。

しかし「天朝さん」への御恩のために戦うと発言するときのギャップの大きさ、底知れなさがよい。
なんだよぉ、のらくらしてるだけかと思ったらちゃんと「男」じゃないか~!

・南星くんの堀中尉は学年を考えるとめちゃくちゃしっかり芝居してたな。
上官としての大きさを、体格だけでもなく内面から出してたのがすごい。

優しく人間的にも大きく、しかしやはり死線をくぐりぬけてきた猛者である。
甘くはないし、目端も利く。
天輝くんの松岡の正体に迫るところの迫力たるや。

・で、その天輝くんはシケに開襟で色気大爆発であった。
まだ原作を読んでませんが、ちょろっとマンガで読んだのでは松岡はだいぶバンカラというか、むさくるしいというか、わかりやすく男くさいというか。
でも女性の演じる「歌劇」だからね。こういうなりも正解なのでしょう。目の保養です。

男っぽさも充分に、「教えてやる」と翼くん演じる志方を遊郭に連れてきます。
明日をも知れぬ命ゆえの夜の過ごし方ですね。

なのに、相手をしてくれた遊女を2人ともを松岡が連れていくっていうね……。え、1人は志方の相手じゃないの!?
それに志方をほっといていいのか、女を教えてやるんじゃないのか。
(ここでほっとかれたから主人公とヒロインが出会うんですけども)

松岡は生死不明により2幕はほぼ出番なしで、終盤に「海ゆかば」を歌う。
白軍服なのは、歌劇のお約束的には……なのだろうと思う。(宝塚とOSKでの違いはわからんが)

あとフィナーレでエトワールみたいな感じで出てきたのもびっくりしたよ。

・ヒロイン・お鈴に辛く当たる女郎は柊さんかな。
彼女には「強者」として生きることを選んだ覚悟を感じる。
虐げられるだけではない、戦争の裏の民衆の一面である。

・特別出演の西郷隆盛・華月くん。
なぜに映像……と思ったが、夢ともうつつともしれぬ邂逅にふさわしい演出だったのかもしれぬ。

華月くんが演じるだけあって、ずいぶんと美しい西郷でしたが、大物の存在感を出せるのはさすがの経験値ですね。
映像の華月西郷と、翼くんの芝居の合わせ方も上手かったです。

・新聞記者の犬養仙次郎(のちの犬養毅)を演じた壱弥くん。志方が老年時代に出会う、若き記者・井上との2役です。
芝居を回す語り手のようなポジションでもあり、難しそうな役どころですが、さすがの上級生ぶりで舞台を締めてきます。

歌が多かったですが、明瞭な発声でよく届きました。

4

OSK

Posted by ゆきたろ