花組全ツ版『激情』感想・3

花組公演感想,花組

ひとこ・美咲の花組全国ツアー版『激情』。
ラストシーンで初めて不思議に思ったことがありました。

あの世らしき場所で、ホセに刺されて亡くなったカルメンがホセに手を伸ばす。
自由を求めて生きたカルメンが、死後とはいえホセに手を伸ばすのがよくわからない。
今回の花組版だけの演出ではなく過去のどのバージョンも同じ流れだったと思うから、観客(私)と演者の解釈違いではないのだと思う。

そうなるとあれはホセが死ぬ間際にみた夢なのか、カチャ演じる作家・プロスペル・メリメの描く世界なのか……。
『激情』という作品が、作家・メリメがホセに出会って描いた物語という構造をとっていることからすると後者ということになるのかな。
となると、メリメがカルメンとホセのハッピーエンドを描いたということになる。
生きている間は愛しあっていてもけして生きざまが相容れなかった2人が、死後の世界ではともに生きようとするという……。
「そんなことありえないやろ」と私は思うんですが、メリメさん的には「救い」を作ったのかなぁ。

もう一つ。
プロローグとラストでひとこホセを捕らえるだいやモラレスの表情が違うんですよね。あれはどういう意味なんだろうなぁと考え続けている。

かつては、プロローグ(祭りの場面の始まり)と銃殺されるホセを捕らえて銃を構えるシーンはリプライズの一種だと思っていたんですよ。
『うたかたの恋』、『エリザベート』などでもおなじみの形式ですね。

まぁふつうに考えて、『激情』は似たシーンを用いて重ね合わせながら、あくまでも別のシーンとして立てているということなのでしょう。

が。
青年士官・モラレスの感情がうまくとらえきれてなくて。

モラレスってけっこうイヤな性格の青年士官なんですよね。
プロローグ終わりの祭りのシーンはホセに銃を向けて脅すし、ゆりちゃん演じるスニーガの腰巾着でもある。カルメンのいる店にもスニーガといっしょに訪れているしね。
ホセがカルメンを逃がして営倉入りになったのも、スニーガの差し金でモラレスたちが現場を離れてカルメンが逃げやすい状況を作ってのことです。

だからカルメンに逃げられたホセが降格したとき、モラレスは笑っている。出世敵の失敗は自分の出世につながるからね。

カルメンの店でホセがスニーガを殺し、ホセはカルメンたちロマと行動を共にするようになる。
脱走兵としてお尋ね者になったホセを追って、ホセの婚約者であるミカエラに接触する場面でもあくまでも「敵」のポジション。性格が悪そうな感じはそのままです。

いま、ふいに気づいたんですが、モラレスってホセがカルメンたちと行動を共にしてることを知らないのか。
営倉から出たホセがその日のうちにカルメンに逢って、スニーガを殺してるなんて知らないし思わないよね。(ついでにいえばスニーガの行方だって知らない可能性がある。遺体は海に沈められてるかもしれないし)

だからカルメン殺しでホセが逮捕されるに至り、ようやくホセとカルメンの関係をモラレスは知ったのか。

軍隊での出世敵が任務の失敗で降格し、1ヶ月の営倉入りのあとに逃亡した。
田舎へ帰ったかこそこそと逃げ回っているだけと思いきや、ロマの仲間として生きていたことを逮捕で知った。
自分と同じ「犬」であった人間が、愛ゆえに激しく生きていたと知った。

銃殺の指令を出すモラレスが苦しげな表情をしていたのは、自らが心の奥では欲して得られなかったものを得たホセへの惜別の想いでしょうか。

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