『グランドホテル』感想・3

月組

ちゃぴのエリザヴェッタ・グルーシンスカヤは素晴らしかったです。

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梅芸で観たのは「49才と49か月」でしたが、ちゃぴのは「39才と39か月」。実年齢が若いからねぇ。
それでも実年齢より15才くらいは上の女性を演じてることになる(はず)ですが、なんの違和感もなく、女優さんだなぁ……と感心しました。

トップ娘役になって4年半を超えた。技術も上がったが貫禄もついた。
「宝塚の娘役」に求めるものは人それぞれで、この貫禄を良しとしない向きもあるでしょうが、『グランドホテル』のグルーシンスカヤという役にはその貫禄が吉と出ました。
40才ほどという年齢と、情熱を失ったとはいえ伝説的バレリーナとしての華や存在感も求められる役だから。
男爵役のたまきちより年上に見えないとこの物語の土台が揺らぐし。

大舞踏室でのコミカルな動きも面白い。
日常の動きがバレエで、漫画のような物言いをするのも浮世離れしたグルーシンスカヤの性格がよく出ている。
変な人。だけど、芸術家ならばそういうものなのかもしれない。
すぐに「キャンセルして!」と言いだすのは困ったものだけれど、これも芸術家のわがまま。

彼女の悩みはシリアスなものなのに、言動がコミカルだから『グランドホテル』という作品を重苦しさから救っている。

そんなグルーシンスカヤが恋に落ちる。
若くハンサムでチャーミングな男爵と恋をするんだけど、その流れがぐっとくる。
39才と39ヶ月――この年齢も、たぶん現代の私たちよりはずっと年上の感じなんじゃないだろうか。
年齢ゆえの引け目は身につまされるなぁ。私も若くないので。

男爵との一夜を過ごしたあとの翌朝、男爵が去ったあと一人で歌い踊る「Bonjour,Amour」。
これが素晴らしかった。
恋をして情熱を取り戻したグルーシンスカヤの生命の息吹を感じる。
生きることと恋をすることと踊ることがすべてつながっているというのがわかる。

グルーシンスカヤという一人の女性のドラマが凝縮されていて、彼女の幸せが大きな波のようにこちらにまで伝わってくる。
歌や踊りの上手いヘタは私にはよくわからないけれど、単純にあれだけ踊りながら歌えることがすごいと思うし、芝居歌として感動した。

そして「Death/Bolero」のダンス。
ちゃぴはグルーシンスカヤという役を離れて男爵と死のダンスを踊る。
これがまた引き込まれる。
ちゃぴの硬質な強さが舞台に緊張感と暗い華やぎをもたらす。

長く宝塚の舞台にいることは――それもトップ娘役という特別な立場であればなおさら――結果として求められるものも大きくなりますが、今回はそれに応えられたと思います。
ちゃぴが退団せずに、このグルーシンスカヤという役を演じたこと、それを観られたことは私にとっての幸運でした。

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月組

Posted by hanazononiyukigamau