『みんな我が子』感想・3
「アメリカの強い父」ともいうべきジョー。彼は事業を成功させたヒーローである。
ジョーのかつての仕事仲間の娘・アンは町に戻ってきてはならない。
アンの父にかぶせた罪を暴かれないようにせねばならない。
とりわけアンの兄が弁護士になったことは不都合だ。
息子・クリスとアンは結婚してはならない。
そのためにも、クリスの弟・ラリーは生きていなければならない。
ラリーが生きていれば、アンはその恋人としてクリスと結婚することができないのだから。
クリスは家を継がなくてはならない。
息子が家を継がなければ、自分のしたことに言い訳が立たなくなる。
「お前のためにしたことだ」
「家族を守るのがどんなに大変なことだと思うのか」
お前のために。
すべてはお前のために。
そう言って、自分のしたことを正当化する。
ことの善悪を、父として、家長としての必然にすり替えて。
お父さんの「お前のためにしたことだ」というセリフは呪いだ。
そうして息子を縛りつけてきた。
息子・クリスは、父を偉大だと思ってきた。
心の清らかな戦友たちを失ったことから自らを苛み、戦場にはあらず戦争で稼いでいた家業に悩み、アンにもなかなかプロポーズをできなかったクリス。
穏やかで善良な彼が、父の落ち度を思わせる言葉には反応する。
そして父のメッキがどんどん剥がれていくさまをみてしまったクリスの自棄。
だが、彼ははじめて現実をみる目を手に入れたのだ。
自らが清らかであったがために、シャットアウトしていた世界を手に入れた。
では、いなくなった弟・ラリーはどうなったのか。
アンははじめから知っていた。
彼女宛の手紙にすべてが書かれている。
それはジョーやケイトが必死にとりつくろい守ってきたもの――家や秩序――を無に帰す通告状のようなものである。
そして迎えるラスト。
ジョーはひとつの選択をする。
「逃げ」と呼ぶにはあまりに辛い。
まさに彼はすべてを失った状態なのだ。
彼のしたことは愚かしく許せないことではあるけれども、痛ましいことだとも思うのだ。
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