さよなら、深雪

以下、宝塚には全く無関係な話なので「読んでやってもいいよ」という優しい方は続きをどうぞ。

ある日のこと、ウチの上司の親戚から職場に飾る赤い花が届けられました。
花を花瓶に活けた次の日、花がところどころちぎれたようになっている。
そして花瓶のまわりに赤黒くて丸いものが点々と落ちている。

これは何。
種?
花粉?

ふき取っても次の日にはまた落ちている。
よく見るとそこには芋虫が。

花がちぎれたようになっていたのは虫が食べていたからで落ちていたのはフンだったのですね。
虫をつまんですてるのもイヤなのでそのまま放置(それもどうよ…)。

芋虫には「イモ子」(芋虫だから)あるいは「深雪」(ちょうど『忘れ雪』を読んでたんだ…怖かったんだ深雪が)と名付けられました。
そしてヒマがあると虫観察。

「イモ子ー、お前は木曜までの命だよ」

おどしはじめる私とS嬢。

「死にたくなかったら木曜までに逃げないとね」
「なー、深雪」

木曜日が燃えるゴミの日なので、その日に花ごと処分しようと思っていたのです。
そして運命の木曜。

職場にきました。
花を見ました。
深雪(あるいはイモ子)はいませんでした。

どゆこと?
S嬢が逃がした?
いや、彼女はそんなことをするタイプじゃない。

S嬢に聞いても案の定知らないという答えでした。
おかげで罪悪感なしに花を処分できたのですが…。

数日後。
部屋に吊られたレースカーテンのごく一部がピンク色になっている。
この色は見覚えがある。
ヤツのフンを始末したときに台拭きについた色だ。

ヤツはこの部屋にいる!

レースカーテンのヒダの中に深雪はいました。
カーテンをゆらしていやがらせをするS嬢と必死で耐える(or逃げる)深雪との攻防が始まりました。

でも結局は放置。
逃がすでも捨てるでもなく。
エサもない部屋でどうするんだろう、とだけ思っていましたが。

しばらくしてサナギになった深雪を発見しました。

( ゚д゚)ポカーン

予想外の展開です。
職場に突如として現れたサナギ。
存在を知っているのは私とS嬢だけですが、そこだけなんだか異空間のようです。

でも放置。

そして深雪の存在も忘れたある日。
部屋を黒い何かが飛んでいました。

あれは深雪なのか。
きっとそうだ。
そうだとしか思えない。

黒い何か、が蝶なのかガなのか判別できませんが、じわじわとした感動が胸の中に生まれました。

よかったね。
こんななんにもない部屋でよくぞ生きていた。
きっと死ぬと思っていたのに生き抜いた。

そのうち窓を開けた際にか深雪はいなくなりました。
さよなら、深雪。
たぶんもう会うこともないけれど。

しかし不思議に思う。

ヤツは人の言葉を解していたのでしょうか。
水曜日の夕方まではもしゃもしゃと花を食べていたのに木曜日の朝には突如姿を消したのだからそうとしか思えない。
あるいは、なにかの空気を感じたか。
それとも、それこそ虫の知らせだったのか。

微妙な、不思議なこともあったものです。


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