『夢現無双』感想・1
月組大劇場公演『夢現無双 -吉川英治原作「宮本武蔵」より-』3月30日(土)11時公演を観てきました。
・脚本・演出はサイトーくん。
いろんな人に役があって、いろんな人にセリフがあって……なのはいいんだけど、散漫に感じた。
王道の描き方としては、たまちゃん演じる武蔵がさまざまな出会い、いろいろな経験を経て成長し、クライマックスとなる巌流島での佐々木小次郎との戦いに向けて盛り上げていく……だと思う。
けれど、他の戦い(たとえば吉岡一門とか)との重さの違いがわからなかったし、武蔵の変化もとりたてて感じられなかったんだよね。
巌流島が盛り上がらないから、「え、これで幕が下りるの?」とかなり本気で思ったぞ。
・たまちゃん演じる宮本武蔵がよくわからない。
どこへ向けて脚本を描き、どういう方向で演じているんだろう。
宮本武蔵は過剰な殺気を出した、日本一の武芸者を目指した猛々しい人物。
戦いにあっては勝つために卑怯ととられかねない行いもする。
子供も含めて何十人も殺す。
売られた喧嘩を買った部分もあるが、買わずにすんだはずの喧嘩もあったし、必要以上に人を殺しているとたしなめられてもいる。
一方、舞台人としてのたまちゃんは、男らしい風貌とともに、包み込むような温かさをもっている。
演じるうえで優しさが出るのは、たまちゃんの美質だ。
だが、宮本武蔵を「必要以上に人を殺しもした、武芸に命をかけた猛々しい人物」として取ると、たまちゃんの温かさが邪魔をしている。
なにより殺気が足りないように思えた。
たまちゃんは(そしてサイトーくんは)、宮本武蔵を血の気の多い非情さもある猛々しい人物として演じ(させ)たかったんだろうか。
それとも、僧たちには誤解され、たしなめられながらも、共感されやすい悩める青年として描きたかったのだろうか。
前者だったら、とにかく殺気が欲しい。
演技力ともに持ち味の問題だろうけれど、もっと猛々しさを出してほしい。
そして、もっとダークヒーロー、ダーティーヒーロー寄りに作ってもいいのではないか。一見共感できないようでいて、それでも惹きつけられずにいられない人物というのはいるものだ。
後者だったら、人物の描き方に深みが欲しい。
もっと悩める人として脚本を描き、また演じもしてほしい。
今のままじゃ中途半端だ。
盛り上がりどころが今一つで、主人公の造形がよくわからなかったから、感情が乗り切らずに終わった。
ディスカッション
コメント一覧
初めてコメントいたします。
いつも興味深く記事を拝見させていただいていますが、今回だけは意見を述べさせていただければと。
巌流島の描写は本来もっと立ち回りの時間を長くとっていたと思うんですよね。珠城さんも充分それに応えられる人だと思います。しかしながら、立ち回りは1人でするわけではない、前回本公演でトラブルも起こっている…結局時間を短縮せざるを得なかったのだと思いますよ。そこで効果音やらレーザーやらで演出するというのも珠城さんの正統派としての持ち味に合わない、結果今の形に落ち着いたのかと思います。
また武蔵の人物像についても同じです。おそらく複数回ご覧いただければ、いわんとするところがご理解いただけると思いますが(ダイジェスト版のように変化がめまぐるしいので一回で武蔵の成長が理解できるようには作られていませんし、心情の変化は台詞の内容以外の部分から読み取るしかありません。)、珠城さんは台詞まわし、歩き方、刀の構え等々さまざまな部分から成長を表現されていますよ。さすがにB席や立ち見席からそれを読み取るのは難しいですが、それは何の公演でも一緒ですね(笑)基本的には武蔵の成長譚としての構成されていると思いますよ。迷い悩みながらも成長していくと公演解説、プログラム等に書かれている通りです。当方としては武蔵の成長も変化も充分感じることができますが、それでも理解できない残念な観客のために、エピソードを一つ付け加えても良かったのかもしれませんね(笑)
またなぜ武蔵をダークヒーローにしなかったのか、についてですが。できなかったのですよ。
演出家も演者も、現在の組状況でダークヒーローのまま小次郎を倒すという役作りができるとお考えですか。誰も何も責められるべきではないのですがね。
もしや判官贔屓に陥ってるのかわかりませんが、冷静なご判断ができるお方かと思っていただけに大変残念です。