『39 Steps』感想・1

雪組公演感想,雪組,専科

専科のカチャ主演の雪組バウホール公演『39 Steps』を観てきました。
脚本・演出は田渕センセイ。
4月25日(木)11:30の回と15:00の回のダブル観劇です。

※以下、まったくと言っていいほど褒めてないので注意※

宝塚公式に出ている解説によれば『39 Steps』はスパイ物の元祖と言われるジョン・バカンの『三十九階段』を原作とする作品です。
原作を3分の1程度読んで宝塚版の配役を見たとき、対応する役名がほとんどありませんでした。
その状態で観劇したわけですが、見ながら「思ってたのと違うな?」と。
帰路につきながら原作を読み進め、先ほど読了しましたが、舞台で観た要素はほぼありませんでした。

ぶっちゃけ、タイトルと主人公の名前と被害者の名前(ついでに大雑把な時代背景も)が同じだけの別作品でした。
これで「原作」扱いするとは……田渕くん、心臓強ぇぇな。
さすが「翼ある人から羽を取ったら『異人』です」レベルのタイトルをつけるだけある……(褒めてない)。
せいぜい「原案」レベルかと思います。
トンチキ化が進み「イルカとは……」「ロマノフ家出てきた(笑)」となっていた宙組大劇場公演の『カジノ・ロワイヤル』ってちゃんと原作踏襲してたんだなぁと思うレベルです。

舞台化にあたって登場人物が増えたり舞台設定が変わったり、ストーリーが取捨選択されたり要素が増えたりということはよくあります。
演出上の都合、上演時間の都合などいろいろありますしね。
それに宝塚歌劇は女性のみの劇団で男役スターが主演するという独自の制約もありますから。
ゆえに、何らかの変更が入ること自体は問題になりません。
というか、その変更は舞台化における面白さの担保でもあります。

さて『39 Steps』。かっこいいスパイ物を想像していたのですが、目の前で繰り広げられているのがトンチキ寄りのコメディなのには困惑しました。
舞台が原作にまったく出てこないミュージックホールになるのは「宝塚化」に合わせた設定でしょう。歌とダンスと美男美女が宝塚のウリでもありますから。
しかし舞台はどこであれ、登場人物とか、ストーリーの流れとか、雰囲気とか、オチとか、もうちょっと原作に寄せないかな……。田渕センセイの完全オリジナルならまだしも「原作」と謳ってるかぎりは。

そして、登場人物がほぼ誰もおいしくないのはいただけない……こんな少人数のバウで、下級生が経験を積む貴重な機会になるのに。
田渕センセイらしくといってはなんですが、相変わらず書き割りっぽい人物造形で、おしゃれっぽいセリフ言ってるけど妙にちぐはぐなのもなんである。

ハネー(カチャ)がアリス(ひまり)に「ウサギを追いかけて穴に落ちないように」と言ったり、アリスが仲間のダンサーたちを「あの子たちスパイみたい」と言ったりするのが、いまいち流れに合わないセリフで気になったわ。オシャレ気なセリフ書いて失敗してるというか。

雰囲気重視なだけで論理性とか整合性とかはないんだよね。

とまぁ、いつもの田渕くんでした。
このへん、バウデビュー作の『Victorian Jazz』から変わってない。

そして笑いのセンスが古い。

かのゆり牧師のターン、「汝の敵を愛せよ」と歌い踊るのはいいとして(上手いし)、一緒に出てくる修道女たちがお色気振りまいてて不安になる。
修道女たちの黒の法衣(?)の裏地は真っ赤、法衣の下にはリリアン付きのダルマ。娘役たちの美脚チラ見せ。しかも作品上の意味はない。尼僧の出番そこだけだし。

わざわざ実在の宗教のモチーフを使って、無意味にお色気と笑いのために利用する。
ウケ狙いの方法が安直すぎるし、悪趣味でもある。
人情味のないダーイシって感じですわ。
とりあえず、価値観はアップデートしたほうがいいと思う。

芝居が第1幕のみで1時間5分、2幕の35分はショーという設定は、その田渕くんの残念な特性(芝居の脚本が特にアカン)をよくわかったうえでの最大限の活かし方かもしれない。
ショーだけなら特に悪くはないから。(良いとも思わんけど)

あ、ちなみにコメディ部分は客席ではよくウケてました。
客席のウケが本心からの笑いか出演者へのサービスかは不明。ただ少なくとも私の好みには合わなかったですね。まぁそんなこともある。

出演者たちはもちろん頑張ってたけど、それだけで作品が面白くなるわけでもないからなぁ。出演者の演技力だけで底上げするのは限度がある。
2幕がショーでまだよかったです。

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