『冬霞の巴里』感想・6

花組公演感想,花組

現地(シアター・ドラマシティ)とライブ配信で見た『冬霞の巴里』の感想の続き。

2幕の大詰め(大晦日の晩餐会)からの怒涛の勢いが好きすぎるのですが。
めっちゃ息が詰まる!
演者も入り込んでるでしょうが、見ているこちらも魂を奪われるように見ているので大変です。
でも演じてて楽しいだろうなぁ……死ぬほど気力も体力も奪われるだろうけれど。

好きなセリフが多すぎて。
印象的なセリフを平易な言葉で書けるさっしー、ほんと才能がある。

「兄さんならずっといるよ、この屋敷、夢の中、外、巴里の町
ずっと俺のことを見て笑っている」
「殺したことの後悔もある、でも生きていても後悔しただろう」
「いつまでもいつまでも、終わらないんだよ」
「なにもかも疲れてしまった」

「いつまでも愚かな私たちなのよ、これがふさわしい幕切れ
2人とも好きにするがいい
はなから赦しなんて求めていない
血には血を、至極当然のことよ」

「誰か俺に命じてくれよ」

「もうやめよう、オクターヴ、ごめんね、ごめんね」
「誰も憎まずにいられたらよかったのに」

「私たちは姉と弟なのだから」
「姉と弟、それでいいの」
「だってそうでしょ。だからずっと一緒」
「俺だけの姉さん、俺たちだけの罪」

オクターヴの叔父・ギョームを演じたつかさ。
警視総監としての怖い顔と、兄に脅える姿、幼いオクターヴに見せる優しさ、妻への愛など、かれもいろんな顔を見せる。

ヴァランタンの親たちを誤認逮捕したところから兄であるオーギュストに弱みをつかまれ、悪事に手を貸さざるを得なくなる可哀想な人でもある。
でもアナーキスト狩りでシルヴァンたちの命を奪う存在であるのも確か。
巴里の下町で暮らし良からぬ連中と近づくオクターヴに釘をさすのも忘れない。

そんなギョームがオクターヴに銃を向けられ一気にくずおれていく。
元々は善良だったのではないかと思われるかれが、悪事に手を染め兄殺しをしての後悔と、そうせざるを得なかったことへの悔恨ややりきれなさを告白する。

辛い。辛すぎる。
諸悪の根源は兄・オーギュストだろうけれど、ギョーム自身にも付け入られる隙があった。
人間の弱さを背負って舞台に立つつかさの凄さを見た思いです。

そしてアンブルやオクターヴたちの母であり、ギョームの妻であるクロエ。
元・月組男役で現・専科のゆりちゃんが演じました。
ちょっと前には『桜嵐記』で高師直でエグいほどの悪役を演じていたというのに、振れ幅すっごいな!!
品と翳のある女役です。

白い陶器のような肌に感情を隠して、でもかすかに匂わせる。
男役の低い声を生かした抑えた声音が、クロエの悪事と謎、抑圧された彼女の生きざまを浮かび上がらせる。

初めの夫を戦場で亡くし、2度目の夫は浮気者でよそに産ませた男子(オクターヴ)を我が子として育てさせる。
連れ子の姉娘は夫の手駒として利用されるのを厭い命を絶った。
妹娘は再婚した自分を忌み嫌っている。

姉娘の復讐のために夫を殺し、共犯者である夫の弟と再婚した。
2人の間に息子(ミッシェル)はできたが、娘を死なせた罪の意識から逃れられることはない。

社交界の女王として生きているけれど、彼女は素手だ。
貴族でもないクロエはおそらく財産もなく、当時を考えれば女の身一つで生きていくことは難しかったのではなかろうか。
だから再婚しないわけにはいかない。

「気まぐれだから」と夫にからかうように評されても、色香と社交術しか生きていく術はなかったはず。
あまたの男性の気をひいても、実際は噂ほどのことはなかったのではなかろうか。

辛い人生を罪の形で一身に引き受けて、「はなから赦しは求めていない」と言い切るクロエに胸を突かれる。

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