今回から新たになった『うたかたの恋』。
セットが素晴らしいんですよ。
茶色がかった金色のセットにハプスブルク家の双頭の鷲。
『エリザベート』での「黄昏時の結婚式」という言葉を思い出す色合いは深く、ハプスブルク家の昏迷と終焉を思わせる。
宮廷には双頭の鷲が。これが歴史の重さ、そしてルドルフにのしかかる重圧。
双頭の鷲が取り去られたルドルフの居室などには柱に鷲の翼が残り、ルドルフの持つ心の翼であり、また望んで得られぬ引き裂かれた想いのようでもあった。
黄昏色の舞台が、舞台を華やかに、かつ愁いを帯びたものにして美しい。
また、今回の作品は『うたかたの恋』でありながら、大作ミュージカル『エリザベート』を下敷きにしたような作りでした。
ある程度の宝塚ファンならほぼ履修済みであろう『エリザベート』。
ルドルフに向けられる「エリザベート皇后に似ている」というセリフや、自ら死に向かう破滅性などに、幼いころからハプスブルク家の後継者として厳しく育てられつつも政治運動に加担し、トートの手によって死に向かうルドルフの濃い死の影と、甘美で抒情的な悲劇性が見えます。
また、ルドルフの周囲の人たちにも『エリザベート』を想起させる書き込みが増えました。
ひとこ演じるフェルディナンド大公は今回非常に役割が重くなった役ですが、かれがルドルフを逮捕にくる理由はもちろん政治的な、王位継承権を争ってのもの。
ではなぜ皇帝にならねばならないのか――という理由が恋人なんです。
フェルディナンド大公の恋人・ソフィー・ホテック(あわちゃん)はボヘミア人で召使。
身分違いなだけでなく、政治情勢次第では命も危うい。
そんな彼女がいることを知って、叔父(伯父?)の陸軍大臣・フリードリヒ公爵(びっく)は焚きつける。
「皇帝(フランツ)も結婚を反対されていた好きな女性と結婚できたのは彼が皇帝だったから」。
観客である私たちは、フェルディナンド大公と妃のその後を知っているわけで、その悲劇を思い起こさずにいられないところもまた舞台に愁いの色を強く落とす。
また、ゼップス逮捕の場面も。
彼は『エリザベート』では「ツェップス」として登場するウィーン新法主筆で自由主義者。
記者であるクロード(だいや)と一緒に逮捕されるところにも、『エリザベート』での革命運動への抑圧を思い出す。
話はそれるけど「いつか(ルドルフの)伝記を書いてみたい」というだいやの役名がクロードなのは、『マイヤーリンク』作者のクロード・アネと関係あるのかな。
新場面である「双頭の鷲」と名付けられた抽象的なシーンにも『エリザベート』の匂いを強く感じる。
あのダイナミズムは現代の演出ならでは。
手島先生の音楽もお見事でした。
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