花組バウホール公演『儚き星の照らす海の果てに』3月22日(土)11:30と15:00の感想の続き。
ヒロイン/ヘレン=ゆゆちゃん
今作のヒロイン・ヘレンは主人公・トーマスの「ポラリス」たらんとし、妻として支える。
はっきり言ってトーマスを愛して勇気づける以外の役目と性格がないに等しいのが不満であるが(宝塚のヒロインあるある)、ゆゆちゃん演じるヘレンは朗らかで純粋で優しいヒロインぶりだった。
美しい佇まいのヒロイン。さすがの花娘というべきか。
このヒロインの無色透明性は、気にならない人は気にならないだろうなぁ。王道っちゃ王道だし。
でも私はヒロインの、作品に動きをつけない、いてもいなくても変わらないポジションがさみしい。
ヒロインにはちゃんと主人公に影響を与え、人生を動かし、化学反応を起こさせる存在であってほしいんだ。
ついでに、「私にはむずかしいことはわからないけど」と一歩引いた奥ゆかしい発言も嫌だ。
そりゃ彼女は船の設計士じゃないから専門的なことはわかるはずがない。時代的なところも、育ちの良さゆえの謙虚さもあるだろう。
でもそれなら別の方向性からなにかを与えればいいじゃないか、「あなたはだれよりも頑張ってる」みたいなお母さんポジじゃなくて。
演出家にはそういうヒロインを令和の舞台に出した意味と意義を考えてほしい。
(このへん、『FORMOSA!!』のシェリル・オズワルド=はばまいはもう一歩前に出てた)
モーリス・オサリヴァン=まのっち
男役唯一のオリジナルキャラクターはまのっちのモーリス・オサリヴァン。
仕事が不出来でイズメイの腰巾着となり、タイタニック沈没事故の原因=救命ボートの不足に加担してしまう。
らいと演じるトーマスの影の立ち位置ですね。
嫉妬や焦燥からくる破滅の道を歩んでしまうモーリスは、たぶん感情移入しやすい。
主人公としてはこちらのほうがドラマチックに描きやすいが、こちらを主人公にするわけにはいかなかったんだろうな。
らいとのイメージもあるし。
クールさと暗さ、焦燥感、嫉妬などをあらわしたソロは秀逸でした。
また、沈没の途中に懺悔するところも真摯な演じぶりでした。
主役/トーマス・アンドリューズ=らいと
主役のらいとは声を低くして頑張ってました。
大人の男としての居住まいを表現しようとしてたのかなとは思うんだけど、少々無理を感じた。
とにかく力んでるなぁ……と。
終演後のご挨拶の伸びやかさが本来の持ち味なんだろうな。
トーマスはひたすらまじめでまっすぐな主人公。
無謀で虚栄心に充ちた発言をするイズメイに煙たがられながらも、忍耐強く説得し、可能な中での最善を尽くす。
困難に立ち向かい、危難に際しても人としてあるべき行動をとる、正義と良心の人です。
が、あまり人格的な幅や厚みを感じられなかったのは、らいとの演技だとトーマスの悩みがあまり深く見えなかったためもあるだろう。
(『うたかたの恋』新公の皇太子ルドルフも悩み方がライトだったもんな)
もうちょっと、生まれる子どもへの想いとかあってもいいんじゃないかな。(これも脚本への文句)
トーマスの仲間たち
トーマスの仲間たちは基本的に皆若い(はず。子持ちもいるけど)
そうなると全体に素直でさわやかな人たちなので、濃ゆいキャラにはなりにくい。
みんなたくさん出番があるのはいいんだけど、役の差別化も難しくなる。
脚本上のセリフではほとんど性格付けが見えないので、ここに演技で色をつけられるか、個性と人格のある人物像を見せられるかが若手の課題でしょう。
(たとえば食べることが好き、くらいじゃキャラが立つとはいえない)
私が観たのは2日目なので、千秋楽に向かって良くなっていきそうではありました。
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