中日版『星逢一夜』感想・1

雪組

雪組中日劇場公演『星逢一夜』初日明けた翌日の2月5日(日)11時の回と15時30分の回をダブル観劇してきました。

●『星逢一夜』なのに客席降りと客席からの登場があります。
3回かな。

・まずは晴興(紀之介)の子供時代。大劇場では銀橋を走りながら源太が「待ってぇ~」と言ってたところですね。
今回も「待ってぇ~」はありませんでしたが、客席に降りて1列目の前を走る。
本舞台に上がる階段をよけねばならないのでぴょんこぴょんこと跳んでる姿が子供みたいで可愛いです。

・星逢の祭り。
たくさんの人たちが客席から登場。
源太だいもんはセンターど真ん中の通路をひとりで。
他の人たちは上手・下手のセンター通路(なんていえばいいんだろう? 17番・32番の隣の通路ですわ)で踊ります。

・ちぎ晴興となぎしょ秋定が客席通路をとおって登場。
入場は下手側の扉(お客さんは使わないところ)で14列目の前を通り、32番の横の通路から舞台に上がっていたような。

●大きな変更点はなんといっても晴興の性格。

※ネタバレ注意※

劇中でも語られていましたが、年貢の取りかたには検見法と定免法の2種類があります。
その年の収穫高に応じる検見法では限界があるから定免法(過去の収穫高の平均をとり、毎年一定の年貢を納める)への転換を行う享保の改革が行われ、大劇場版では晴興はその急先鋒として辣腕をふるいます。
国のために心を殺し一揆を鎮圧する晴興は「黒」のイメージで、主人公にはめったに見られない悪役の雰囲気すら漂わせていました。

中日公演でも晴興が定免法への切り替えを言いだしたことにはなっていますが、江戸城での月例拝賀の場面ではすでに定免法が現状には合わないと口にしています。
ほかの老中たちの言や吉宗の命により心ならずも苛政を布く幕府老中となりますが、自らの運命に翻弄され迷い悩むさまは「白」の雰囲気です。

悪役のような立場におかれたけれど、それは彼の本意ではない。それが証拠にかれは悩み、かなわなかったけれども力を尽くし一度はおかした過ちを改めようとしている。
ああ可哀そう――。

と、感情移入しやすい、わかりやすく主人公らしい役になっています。
悲劇のヒーローです。

紀之介が「晴興」になった大劇場版は、物語を優先して観客を突き放していたように思えます。単純な共感ができない主人公っていますよね、シシィみたいな。
大劇場版の晴興ってどこかそういう感じ。
中日版は晴興がほぼ紀之介のままなので、ダークヒーローの趣すらある大劇場版に比べたらすんなり感情移入できると思う。

どっちがいいか、これは好みによるとしか言えません。
ウエクミ作品はなんせ重いので――中日版のほうがまったり観れるのかも。
大劇場版のヒリヒリして胃の腑にずんとくるようなのに慣れた身には物足りないような気もしますが、そんなのを求めている人ばかりじゃないだろうし。

ただちぎたさんは芝居ができる人なので、ちぎたさんならではの悪役の顔をした善人だった大劇場版の晴興が懐かしかったりもします。
仮面をつけたように透き通った顔の中に熱さも悲しみもなにもかもが見えた大劇場版の晴興が。
感情を押し殺したちぎ晴興の顔がとてつもなく美しかったせいというのもあるでしょう。

●一揆の後の始末も、中日版のほうが「優しく」なっています。

吉宗は、晴興の願いを容れてその年の三日月藩の年貢を半分に減じます。
大劇場版では、一揆とはなんだったのか、三日月藩には結局なにひとつもたらさなかったではないか、源太の死もちょび康の死も晴興の配流もただの無駄ではなかったかと思えたので。
そのシビアさがまたウエクミらしい苦さとして、決して嫌いではありませんでしたが。

これらの変更は、もしかしたらウエクミはエンターテイメント性を表に出そうとしたのかなぁとも感じましたが、さて。

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雪組

Posted by hanazononiyukigamau