『こんばんは、父さん』感想

宝塚以外

『こんばんは、父さん』大阪公演を11月23日13時に観劇。
男3人だけのストプレです。

借金を抱えて逃げてきた父(平さん)、その息子(佐々木さん)、借金取りの若い男(溝端さん)の3人が、かつて父親のものだった廃工場で繰り広げる問答。

HPなどに出ているあらすじを読むだけで暗そうで、そういう暗いのは結構好きなので(笑)観に行ったんですが、正解でした。

廃墟としか言いようのない元・工場の天井からつり下げられたロープに首をかけ、いざ死ぬかと見えた父のもとに、元の住まいから跡をつけてきた男が借金の返済を迫る。
本人が返せないなら息子にーー、と電話をすれば、当の息子もまたくたびれた格好で廃工場にいた。
男は男で消費者金融の会社から入る連絡に切迫した状況をみせる。

抜き差しならない状態で対峙する3人。

父の、息子の、そして母の過去をみせながら、親子の和解と若い男の脱出・再生をもって最後には気持ちよく終わる。

過去と現在の往還がすごかったねぇ。
役者だわ。

子供の顔、社会人として「勝ち組」だったころの顔、なにもかも失った現在の顔。

借金取りにみせる顔、十年ぶりくらいに再会した息子にみせる「威厳のある」父の顔、第2工場を作り時流に乗っていたとき傍若無人な顔、「成功した」息子に声をかけたときの顔。

特に父親役の平さん。
親として息子に見せたい顔と、息子に暴かれていく暴君の姿、そして情けないようでいて図々しさ・抜け目なさのギャップにくらくらした。

自分の都合のよい夢をみて、人に夢を押しつけて、けっして悪びれない。
怖いなぁ。イヤな奴だなぁ。
しかし憐れみと同情を寄せずにいられない。

息子役の佐々木さんは、成功していたときに父親と会ったときの決まり悪さを、笑いの形でみせた。
あのオーバーアクション、あのものすごい表情。
笑ったわー。

そして社会的にあらゆるものを失って、父と心の交流をはじめ、「よくこの階段から覗いていたよね」と機械が好きだったころの顔を父にみせる。
大人になったけれど、子供のころの無邪気さを――まだ父とつながりのあったころの顔を見せる。

昔に戻るわけじゃない。
過去の断絶を埋めることはできないけれど、それでも寄り添って、時間と経験がもたらした理解のうえに、若い男から差し入れられた酒で乾杯をする。

再生の物語だった。

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