蘭蘭『ファントム』感想・4

2021-02-11花組公演感想,花組

カルロッタという役について、私は今まで誤解していたかもしれない。

私にとってのカルロッタの基準はオサバージョンのタキちゃんカルロッタだったもので、彼女のように強く意地悪でとんでもなく歌がうまくなければならないものだと思い込んでいた。
プリマドンナの地位は夫であるアラン・ショレが買収した結果で、その歌声たるやエリックたちに耳を塞がれるものであるにもかかわらず。

さて一花様のカルロッタ。
歌そのものは「巧さ」という点ではタキちゃんに及ぶべくもない…。
決して下手ではない。普通にうまい。
オペラ座のプリマドンナとしては不足だが、宝塚の生徒としては充分なレベル。

そう、それが「いい」んだ。
だってカルロッタの歌の技量なんてその程度のものなんだから。
たしかに「ああ忙しい、時間が足りないわ」からはじまる大ナンバーはあるけれど、それ以前にカルロッタなんだから。

歌姫であるタキちゃんは「歌手」として出ていたが、一花は「役者」として出ていた。
カルロッタとして舞台にいた。

役者・一花様のカルロッタは歌が巧すぎない点においてすごく「正しい」と思えた。

さて、タキちゃんバージョンのときはオペラ座の女帝の趣で、オペラ座のなかで1人突出した存在だった。
あの人もこの人も私の手下。
「私のために世界を回らせるの」という歌詞そのままに生きていた。
傲岸不遜、傍若無人。
たとえば疲れた彼女が座る椅子がそこになければ、彼女は「あなたが椅子になりなさい」と命じるだろうし、回りの者はそれに従わなければならない。

それに対して一花バージョンはもう少し調和的な性格をしている。
付人のヴァレリウス=さあやと仲がよく、彼女を気遣うことすらしている。
ものすごく勘違いした人だしクリスティーヌなどに意地悪もするけれど、気に入った相手に対してなら親切に接するだろう。アクセサリーの一つくらい機嫌がよければくれるかもしれない。

タキちゃんほど戯画化されておらず、ちょっぴり「小者」で、でもそのぶんこういう人いるかもな、と思える。
座りがいい。
そしてアラン・ショレが愛するのがわかる。
「私の妻が変わり果てた姿に…!」と嘆くのがわかる。

かわいらしい。
自己顕示欲が強くて困った人でもあるけれど、どこかかわいらしい。
そんな彼女が唇をゆがめてニヤァっと笑うところもすごくいい。

かわいいところとドスを利かせた怖いところの振れ幅が大きくて楽しかった。
そして思い切り演じているけれどやりすぎてはいない節度ある姿がさすがだった。

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