宙版『銀ちゃんの恋』感想・3
みっちゃん演じるヤスは「大卒」がすごくしっくりくる感じでした。
育ちがよくて優しくて人を拒否することができない、そんなキャラクター。
ヤスを演じるみっちゃんは相変わらず芝居のクォリティが高く、歌は耳に優しかったです。
小夏すみ花との家庭内暴力のシーンの激しさ、心の痛さは凄まじいものがありました。
「結婚して下さいと言え!」と小夏に叫ぶ銀ちゃんを後ろで見ている姿のいたましさも胸にきます。
さすがみっさま、隙なし。
こちらの期待を軽々とこなしてくる。
――のではありますが、それが少々物足りなくもあります。
あのルノー大尉をこなしたみっちゃんだから、このヤスだって掌の内でころがしているようなものです。
実際にどうかは知らないけれど私にはそう感じました。
ヤスをきちんと造形したうえで、場面に応じて主役にも脇役にもなれる、それが演技者としてのみっちゃんの実力だと思っています。
が、みっちゃんの演技がうまいことなんて宇宙の真理みたいなものです。今さら語りたいとは思いません。
破綻しないんです、彼女は。
それが少々つまらない。
迫力ある演技も入りこんだような芝居も、鍋をひっくり返すのも階段落ちの日に啖呵を切るのも、どこか予定調和として感じられるのです。
下手な人だったらそもそもが「足りない」ところにしかならない。
入りこむ人だったら過剰に演じすぎてしまう。
それをきちんとした枠のなかに収めながら迫力ある芝居ができるみっちゃんというのはすごいのでありましょう。匙加減ができること自体が実力であり、舞台人としての冷静さを持っているということなのでしょうから。
が、みっちゃんにそういうことができることなど自明の理でありますから。わかりきってますから。
ヤスでそのことを再認識したわけですが、なにか違うものを発見したかった。
破綻してほしかったな、と思います。
みっちゃんがものすごくできるジェンヌであるということを前提として、その先に、何があるのかを見たい。
「破綻してほしい」――なんて、はっきり言って私のわがままなんですがね。
無茶言ってるな、という気はするし。
破綻したところでうまくいくという保証もないですし。
上手くて安定していることが得難く、なにものにも代えがたい美質であるということは承知の上で、それを超えたなにかを見たいと思います。
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