『虞美人』感想・5

花組

作品タイトルは「項羽と劉邦」ではなく『虞美人』である。
とはいえ、宝塚の中心は男役トップ、トップの片翼とはいえ娘役は添え物のようなポジションに甘んじなくてはならないときも多々ある。

項羽と劉邦が義兄弟の契りを交わし(互いの手の血をすすりあうという、色っぽいやらなんというやらな場面)、競い合い、愛憎入り乱れ、さまざまな思惑のなかで天下を奪い合う。

そんな中の「虞美人」なので、そもそも物語の中心にいられるはずもないキャラクターだ。
物語を動かしたりはしない。
ただ項羽の傍にあり、美しく咲き、美しく散る。

彼女は項羽を愛し、支えて生きた。
激動の世界の中で、ただひたむきにそこにあった。
ちょうど根をおろして咲く花のように。

虞美人役の彩音ちゃんは、美しく、可憐でけなげな、芯の強い女性として舞台上に存在していた。
ただそこに「いた」のではなく「存在した」。
確かな存在感をもってそこにいた。
柔らかな光を放って。

「君臨した」などという大仰な存在感ではないけれども、役として求められる最大限のありかたをもって、舞台上に息づいていた。

戦に負けて人質となった呂后を見舞うところは、気が強くて猛々しさのある呂后にもひかぬ芯の強さと偽善でない優しさを見せた。
彩音ちゃんの演技によって呂后があわれさを増した。

虞美人の存在のしかたは柔らかいのに、なぜこんなにも鮮やかに舞台に立てるのだろう。

最後に見せる剣舞での美しさは特筆ものだった。
たおやかでしなやか。
たたずまいも体の動きも美しい。

運命に流されず、しかし逆らわない。
ただ時代と愛する人とともに生きたヒロイン。

美しくて強い。
とても素敵な虞美人だった。


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花組

Posted by hanazononiyukigamau