星全ツ『アルジェの男』感想・2

星組

前回に比べて、アナ・ベルの死がわかりにくい演出になってた気がします。

私は月組のきりまり版を観ているので「このあとアナ・ベルは湖に身を投げるのだな」というのが分かっているけれど、初見の人にはわかるのだろうか。
歌詞を丁寧に追っていればわかる気もするけど、歌詞を意味ではなく音としてとらえていると難しそうだ。

この公演で最も泣けたのはアナ・ベル(ほのか)とアンドレ(極美くん)じゃないだろうか。
2人とも演技がよかった。

アナ・ベルは心清らかで優しい女性だ。
けれど、時代もあってかアンドレに対しては身分を超えての感情はない。
アナ・ベルは心優しい主人ではあるが、アンドレを「男」としては見ていないから、現代の私からすればどこまでも鈍感で残酷である。

ジュリアンのことを想う気持ちを打ち明けられるのは、アンドレを忠実な付人としか見ていないから。

アンドレもそれを承知しているが、だからといってアナ・ベルへの恋情がなくなるわけでもない。
彼にできることは忠誠を尽くすことと、自分の恋情を気づかせないことだ。
どこまでも「忠実な付人」の範を超えようとはしない。

ピアノを弾きながら、他の男への想いを語る主人アナ・ベル。
ジュリアンに弄ばれて傷つき、死を決意するアナ・ベル。

忠実な付人であるアンドレは、けして主人の望みには背かない。
たとえそれが死であっても。

アンドレを演じる極美くんがめちゃくちゃ美しいのですよ。
アナ・ベルを支える背中が、肩が、耐えながら泣いている。
主人にはけして悟られないように、それでいて観客には伝わるように演じていて、だから衝撃のラストにきちんとつながるのだ。
こんなに背中で語れる男役だったとは知らなかった。

アンドレは、気を失ったアナ・ベルをお姫様抱っこしたところがいかにもな胸キュンポイントだったが、それよりも下ろし方の丁寧さがすごかったなぁ。
めっちゃ気配りできる男やでアンドレ。

アナ・ベルのほのかは死に向かう歌が格別に上手い。
「この屍をどこに投げよう」の透明さ、泣かずにいられない。
劇場内に静謐な空気が充ちて、あまりに張り詰めた雰囲気に拍手さえ遠慮されるほど。

盲目の演技もうまい。
視線を合わせず、手でさぐっていく動きが自然だった。
色濃い演技もできる娘役だけど、彼女の「白さ」はすごい。
ともすると嘘くさくなる聖女をどこまでも清らかに演じ上げた。

ほのかは実力派娘役の面目躍如だった。

極美くんはこれまでさほど実力をどうこう言われるタイプのジェンヌさんではなかったけれど(良い意味でも悪い意味でも)、今回で内外の評価が上がったんじゃないだろうか。

ほのかと極美くんがアナ・ベルとアンドレでよかった。

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星組

Posted by hanazononiyukigamau